僕は灰色の空の下を這ってゐた
春だといふのに追い風が寒かつた
ふらふらと歩いてゐると踏み切りに差し掛かる
僕は繰り返す赤い点滅をぼおつと眺めてゐた
コンコン、コン、とベルは叫ぶ
そのあまりにも無責任なこと
僕はそつと目を閉じた
次に目を見開いた時、幼児が綿毛を吹いてゐた
そういえば手を引いてゐた母親の、ちらと見えた横顔は
曲線のやふな美人だつた気がする
やがて綿毛は僕の着物にしがみつく
芽生えれば花、枯れれば屑
芽生えれば花、枯れれば屑
芽生えれば・・・
と心で唱えてゐた僕に幼き人はフと冷たく笑ふ
僕の心根は純粋な水晶体に見透かされてゐたのだらふ
気づけば僕が見たかつた獣は過ぎ去つた後だつた
僕は踏み切りが進入を許した後
仕方なくしつかりと線路をまたぎ家へ戻つたのである

臆病な青年の話であります